SDGs目標のターゲットを考える 6.安全な水とトイレを世界中に

SDGs17目標の6番目は「安全な水とトイレを世界中に」。正式な目標は、「すべての人の水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する」。タイトル通りの目標。国連データによると、世界中で10人に3人が安全に管理された飲料水サービスが受けられておらず、10人に6人が安全に管理された衛生サービスを受けられていない、さらに8億9200万人が屋外排泄を続けている(2015年時点)。

人間の生活には水が欠かせない、その水の安全性が担保されていない人たちがたくさんいる。汚れた飲料水は感染症やその他病気を引き起こし、健康(目標3)を損ねる要因になる。また排泄の安全性は衛生面(目標3)や治安(目標16)にも関わる。安全な水やトイレへのアクセスが容易であること、安価であることは、たくさんの人に健康や平和をもたらす。目標6では、そのような水資源や衛生面に関するターゲットがならぶ。

ターゲット6.1は、安全で安価な飲料水への平等なアクセスを目標としている。日本の水道水の安全性は世界で見ても高レベルで、水道水をそのまま飲むことができる7つの国のひとつである。世界に目を向けると、安全に管理された飲料水を飲むことができない人も3割ほどおり、ジュースよりも水のほうが高い地域もある。安全で低価格な飲料水を誰でも飲むことができる状態を目指しているのがこの目標。日本は問題ないと思われそうだけど、日本の水道管設備は全国的に老朽化が激しく、更新工事が追い付かないと言われている。今後地域の過疎が進み、行政の財政難により水道設備の更新作業ができなかったり、過疎エリアに暮らす家までの水道インフラの整備ができないようになると、「すべての人の平等なアクセス」は達成できないことになる。海外の貧しい人の問題でなく、日本全国で直近で起こる問題なので真剣に考えなければならない。

ターゲット6.2は下水施設・衛生施設へのアクセス。屋外排泄をなくすことが目標。そしてより具体的に、女性と女児、脆弱な立場にある人々のニーズに特に気を付けるとある。屋外排泄はそこから流れたモノが川や整備されていない水路に流れ込み、下流にいる人がそれを飲み水として取水する、そして感染症などが発生するといったことが起きている。また、紛争地帯や女性の安全が確保されていない地域では、排泄時の無防備な状態を狙われることもあり、治安が悪いところでは命がけの行為でもある。日本においても、水道設備と同様、下水設備の老朽化は発生してくるので、6.1と同じような注視が必要だろう。数年前にLIXILがユニセフと共同で作った「SATO(Safe Toilet)」が話題になった。このターゲットの解決を目指して作られた製品。アジアやアフリカへ寄付し環境改善活動をしていたが、最近では各地域でこのSATOを生産する体制をつくり、現地の雇用を創出し(目標8)、安価で地域に販売しているらしい。

ターゲット6.3、6.4では、排水・投棄・汚染された水の排出を最小限にしたり再生利用できるようにすることで、世界的に水質を改善すること、また水の利用効率を大幅に改善して、持続可能な採取ができるようにすることが書かれている。地球にある水のうち97%が海水で3%が淡水らしい。この淡水を飲料水や農業・工場用水などで使っている。これから人口がさらに増えていく中で、必要とされる水の量も増えていくが、これまでと同じ使い方ではすぐに水不足になってしまう。というか水不足はすでに発生している。水質改善や汚染水輩出最小化には、イノベーション(目標9)が必要な領域に思える。

6.5には、国境を越えた適切な協力を含む、あらゆるレベルでの統合水資源管理を実施することが記載されている。日本の場合は独立した島国なので、他の国と比べてあまり問題が起きにくいところかもしれない。大陸でつながっている国では、川や山で国境が分かれていたり、川の上流と下流で国境を跨いでいるような地域もあると思う。この統合水資源管理は、そういうことじゃないかなぁと推察。

ターゲット6.6では目の前の水資源だけでなく持続的に確保することも意識した未来向けの目標になっている。「山地、森林、河川、帯水層、湖沼などの水に関連する生態系の保護・回復」はそのまま、今だけでなく将来への持続性を考慮した目標と言える。また水資源だけに注目するのでなく、「生態系」とすることで水資源に影響を与える動植物の存在も同時に大事にしようという想いが伺える。木や草は水の中に酸素を取り入れたり浄化したりする。プランクトンや水系生物は水をきれいにしたり、自然の摂理を存続させる大事な要素である。外来種を持ち込まない、繁殖させない、など固有種への対処も含まれる課題だと思う。

ターゲット6.aでは、これらのターゲットの解決に向けた各国取り組みの中でも後手を取る地域が現れないよう、組織的な能力を向上させる(キャパシティ・ビルディング)支援や国際協力を進めることが目標になっている。また6.bはこれら「水と衛生に関わる分野の管理向上への地域コミュニティの参加を支援・強化する」ことが盛り込まれ、個人というよりも組織全体、地域全体の課題としてとらえること、それを支援することが志向されている。

世界的な課題として捉えると、日本に関係ないと思いがちになるけど、日本の社会インフラ一斉老朽化は何年か前から社会課題として認識されている。災害が発生すると断水が発生する状況も、残念ながら毎年起きている。これも持続的とは言えない。個人でできる行動としては、まずは無駄に水を使わないこと、あとは下水処理に負担のかかるものを流さないとか。もう少し考えると、適切な水資源利用で作られた製品を購入するとかもあるかもしれない。Tシャツ1枚に何百リットルてレベルの水が使われているとか、知識を得て行動に変えるのもひとつかもしれない。

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SDGs目標のターゲットを考える 3.すべての人に健康と福祉を

SDGs17目標の3つ目は「すべての人に健康と福祉を」。個人的には、キャッチフレーズとターゲットのギャップが大きい目標ベスト1。キャッチフレーズや正式な目標「あらゆる年齢のすべての人の健康的な生活を確保し、福祉を促進する。」から連想すると、健康経営とか福祉(子育て、介護、障がい者)の充実をイメージするけど、もちろんそれ関連のターゲットもあるけど、それより重視していることがたくさんある。

まず3.1、3.2のターゲットは、妊産婦・新生児および5歳以下の死亡率低下。世界では医療体制が整っていないため、妊婦が安心安全に子供を産める状況にない地域があり、そこではいまだに妊婦・新生児ともに命の危険がある。5歳児未満の予防可能な死亡(ワクチン接種で回避できる感染症など)は2000年990万人から2016年560万人まで減少しているものの、まだたくさんの救える命が救えていない状況。このターゲットは数値目標もついていて、より具体的・野心的と言える。

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ちなみに日本でも、ターゲットの数値目標は達成しているとはいえ乳幼児の突然死や寝返りに気づかず窒息死などが社会問題になっている。

ターゲット3.3は伝染病の根絶と感染症への対処。3大伝染病のエイズ、結核、マラリアもいまだ根絶できておらず、マラリアに至っては2013年から2016年にかけで患者が増加している。温暖化が進み、マラリアの媒介になる蚊の生息地に変化が起きた場合、これまでマラリア被害のなかった地域でも発生する可能性がある。住友化学が、防虫成分入りの蚊帳をつくりアフリカへ展開するなどのイノベーション・社会課題解決事例も出ている。
またこのターゲットは、新型コロナウィルスもしっかり該当する。新型ウイルスが経済、環境、社会に及ぼす影響はここで言うまでもないかと。いつか整理したいけども。

ターゲット3.4、3.5、3.6、3.9と3.aあたりは現代?近代?特有の課題かなと思ったけど、昔からあるっちゃあることかも。3.4では非感染症疾患、3.5はアルコールを含む薬物乱用、3.6は交通事故死傷者、3.9は有害化学物質や環境汚染による死亡・病気件数をそれぞれ減少させることを目標にしており、3.aではたばこ規制枠組み条約の実施強化が盛り込まれている。3.4は感染症以外の疾患と考えるとめちゃくちゃ広い話になるけども、「精神保健および福祉を促進」から見ると、精神を病む人や自殺者削減もここに該当すると思う。タイヤメーカーが3.6の達成を掲げて事業していると聞いたことがあるけどこれは事業活動を通じた社会課題解決につながる事例だと思う。3.aのたばこ産業の市場規模は巨大だと聞くけど、JTはこれからどう事業を展開していくのか、気になるところ。あとはアルコールもたばこも、国が税金をかけている部分なので税収増やしたい国との折衝というか権力争いのようなことも起きそうだなと思う。2020年10月からはたばこと第三のビールが値上げになった。主幹産業および貴重な税収減と、SDGsの課題解決とのバランスがどこに着地するか?

ターゲット3.7や3.8は、性と生殖に関するヘルスケアの利用(3.7)や基礎的なヘルスケア・サービスへのアクセス、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(3.8)など、個人の人生設計の上での家族計画に関する情報や教育を行うことや、必要なときに適切な医療にアクセスできることが目標となっている。ターゲット3.1が目の前の課題への対応策とすると、この目標はこれから先3.1や3.2の状況になる総数を減らすような取組みだと思う。個人が尊重され自由な人生設計の中で子供を産む/産まないという選択肢がない人がたくさんいる。自分の、または子供や家族の具合が悪いときにすぐに医者に診てもらえる状況にない人たちがたくさんいる。医者が処置すべきは病院に来ることのできる目の前の患者だけでなく、病院に来ることができない人たちや、その環境にある。っていう考え方でアフガニスタンで殺された中村医師は医者業をしながら水路を引き、砂漠を緑豊かな畑に変えた。FACTFULNESSの著者も同じような考えだった。アクセスとは単に道路とかインフラの話でなく、情報だったり治療にかかる値段だったりも含まれる。薬に書いてある文字が読めるかどうかって話は次の目標の話で。ちなみにFACTFULNESS、家族の共著、お父さんがメインに進めてきたけど発行直前にお亡くなりになってしまった。彼の自伝に近いタッチで読みやすく、人生に絡めて事実と認識の違いや正しく事実を捉えることの大事さがわかりやすい1冊。

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ターゲット3.bはワクチンや医薬品の研究開発への支援とそのアクセスについて言及しており、これも新型コロナウイルスのことが当てはまる。新しい生活様式による暫定対応もあるけど、ワクチン開発とか世界中が今ここに集中投資して研究を進めているところだと思う。最近日本では感染が落ち着いている(慣れてきた、飽きてきた?)と言われているが、世界的には感染者数も死者数も増加傾向にある。早期開発と同時に、それが高額で金持ちしか接種できないとかでは意味がないので、誰一人取り残さずにワクチンにたどり着けるようなレベルでの開発・普及が求められている。

3.c、3.dは3.7-8に近く、将来の健康的な生活、充実した福祉体制のための投資とも言えると思う。対象国が限定されているので日本には関係ないこと、ではなく、日本でも医療従事者は足りていないし、日本の技術力をもって対象国の人に対して訓練するということも大事な問題だと思う。医療従事者でない日本人にとっても、「健康リスクに対する早期警告、リスク緩和、リスク管理のための能力強化」は必要なことだろう。栄養バランスの整った食事やら適度な運動やら定期的な健康診断とか、当たり前のことで自分自身の管理のことでも、関係ないことではない。SDGsは「誰一人取り残さない」から。自分が健康でいることがSDGsの達成に貢献することにつながる。健康経営とか健康医療、予防医療に関するサービスはこのあたりが該当すると思う。

なんとなく似ていそうなターゲットで分類してみた。防げるレベルの目の前の課題、防げるはずの病気や事故・依存症に関する課題、直接的であり将来の不幸を減らすための課題、脅威に立ち向かう準備のための課題、になるかな。キャッチフレーズとギャップがあるように見えるけど、ターゲットを集約してフレーズを考えるとこのキャッチフレーズが秀逸なのだなと思う。

目標3について考えてみたんでした。

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