サステナビリティ経営とSDGs経営

SDGsを理解し、企業経営に組み込む「SDGs経営」。SDGsが採択される前から潮流はあったので、その当時から取り組んでいた企業は「サステナビリティ経営」と表現したりしている。SDGs=持続可能な開発目標」は2030年に向けた野心的な目標なので、「10年後に達成するために会社やってんじゃないわ」っていう企業はサステナビリティという言葉を使うことが多いように思う。個人的には、2028年ぐらいに「SDGs経営」を言い出すのは遅すぎると思うけど、今なら「SDGs経営」って言っても良いんでは?と思う。日本企業がいつからかなぜか3~5年の「中期経営計画を立てるのが常識」みたいな文化ができて、5年以上の計画を立てている企業がほとんどない中に置いては2030年に向けた目標というだけでも、今から10年先。立派な長期ビジョンができる。

自分の中での整理
【サステナビリティ経営】
事業活動(売上をあげる本業)を通じた社会課題解決。SDGsを取り入れ、具体的な製品・サービスが具体的なSDGsターゲットにどう貢献するかを示し、事業KPIとともに社会KPIを設定し事業活動の社会へのプラスインパクト・社会的意義を数値化・視える化する。企業活動(CS部門、管理部門)はESG経営の指標を取り入れ、活動を「環境」「社会」「ガバナンス」に分類してそれぞれどう責任を果たすか、マイナスインパクトをどう減らすかを数値化・視える化する。プラスマイナス含めたこれら活動の数値化・視える化は、第三者評価を使ったりTCFDやらGRIやらSASBやらISO26000やらいろんな国際的基準に照らして報告している。この非財務情報と財務情報を合わせて「サステナビリティレポート」「統合報告書」とかの名前で年イチ発行したり。10年以上(2030年以降)先のビジョンを示している場合に効果を発揮すると思われる。

【SDGs経営】
事業活動の表現はサステナビリティ経営と基本的に一緒。企業活動の内容にもSDGsの目標・ターゲットを絡めて数値化・視える化する。ただ、この表現の分類をしれっとESGに合わせることはできて、SDGsだけ見てるわけじゃないですよアピールはできるかも?評価の仕方や報告書もサステナビリティと近いけど、その表現分類の中ではあくまでSDGsに触れる。時間制限があるとはいえ2030年までの経営方針としては抜群の具体性を訴えられる。今からであれば10年先というのは長期ビジョンにも足る。企業理念やら社是やらを変えずに、現経営者で進めるにちょうど良いスパンとも思える。

どっちが良い悪いはない話だと思う。考え方の違いだし、どちらにせよ経営の強い意志がなければ社内に浸透しないし変わらないし、これまでの経営方針が売り上げ重視だとかのびのび成長を志向していたところから転換する状況だとするとより一層、強い意志とビジョンの提示と頻繁な説明がなければ実現しえない。ビジネスマンの中でも「SDGs」自体、いまだに知らない人も大多数いる。

でも、時代は?世界は?ちょっとずつ変わってる。今まで「先進国」「発展途上国」と分けていた分類は、今は何でどう分類すれば良いのかわからない状況。アフリカやインドなどの砂漠地帯にも携帯は普及している。スマホは先進国だけの持ち物ではない。日本の小中学校の指導要領に「SDGs」が盛り込まれている。高校では専門文科ができる。大学でもすでに教えているし、子供~大学生の、これからの社会を担う若者世代がすでにSDGsネイティブとして活動している。

取り入れるのも意志、取り入れないのも意志、ただ時代は進んでる。

取り入れないのは意志なんだけど、ゆるやかな自殺なんだろうなと思われる。今の生活の延長上に、豊かな未来はないと。個人の価値観とか人生観については今回触れないけども、企業が存続する上ではここは議論して自社の方向性、方針を決めておくほうが良いんじゃないかなぁと思う。たとえばコーポレートサイトでなんもサステナビリティやらSDGsやらに触れてないのは、実際内部では活動してたり、どれだけ良い活動してても、他の人から見ると「知らない」「やってない」「考えてない」ととらえられる。企業に寄らないか、法人ならそうかも。

これも図示がいるなぁ

SDGs目標のターゲットを考える 8.働きがいも経済成長も

SDGs17目標の8番目、「働きがいも経済成長も」。目標1~6が「発展途上国向けイメージが強い」(過去に書いた記事のとおり、発展途上国の概念は今は適切でないんだけどアジェンダの表現がこれなので)のに対し、目標8は先進国向け目標のイメージが強い目標のひとつ。本文は、「包摂的で持続可能な経済成長およびすべての人の完全で生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する」で、先進国だけでもなくやっぱりすべての人なんだなと思える。日本のIT企業が重点課題=マテリアリティとしてあげたがる目標のひとつでもある。働きがいっていう広い概念でもあるので、ターゲットも10+2個と多め。

ターゲット8.1は国ごとの基準で見ての一人当たり経済成長率の持続という、ハードル高めな目標。後発開発途上国においては年率7%っていうかなり高そうな目標。コロナの影響で達成までの道のりが遠のいてそう。

ターゲット8.2-3は、持続的な経済成長を達成するための働き方や政策促進をもとに、大企業だけでなく中小零細企業の支援を目標としている。高付加価値セクター、労働集約型セクターへ重点を置くこと、多様化や技術の向上、イノベーションの実現や雇用創出・企業・創造性・イノベーション支援や金融サービスへのアクセス改善など、具体的な課題や支援策が盛り込まれている。IT企業、金融業界が選びやすいターゲットでもある。

ターゲット8.4は「持続可能な消費と生産に関する10カ年計画枠組み」にもとづく経済成長と環境悪化の分断を図るという目標。これこそ先進国の大企業とかIT企業とかが選んでも良いんじゃないかと思う。第三次産業革命からこれまでの発展は環境を置き去りにしてきており、経済発展=自然環境悪化はセットだった。これを分断しよう、経済発展と自然環境保護を両立させようというのがこの目標。先進国主導のもとという言葉も明記されており、日本はより自分事で考える必要がある。

8.5以降、8.8までのターゲットは国・企業の経済成長や生産性からぐっと人の話に寄っている。対象は、健常者だけでなく若者、障がい者、奴隷、こども、移住者、女性、不安定な雇用状態にある労働者とまさに「すべての人」。生産的な雇用や人間らしい仕事と同一労働・同一賃金や(8.5)、就労就学職業訓練を行う人の割合増加(8.6)、強制労働根絶・奴隷制や人身売買、児童労働の禁止・撲滅(8.7)、労働者の権利保護や安全・安心な労働環境促進(8.8)と、人間らしい働きがいにつながる環境も整備していこうという目標。文章が長くて難しい表現もあるけど丁寧にみるとわかる。人身売買とか日本ではあまり関連なさそうだけど、ひとり親世帯や非正規雇用者はコロナ禍においてリストラや休業のマイナス影響をたくさんくらった、不安定な雇用状態にある労働者と言え、日本でも解決が迫られている問題である。

ターゲット8.9では持続可能な観光業促進が盛り込まれ、「雇用創出や地方の文化振興・産品販促につながる」という視点は地方創生にもつながる目標になっている。日本の地方自治体や社会企業家がターゲットとしやすい、取り組みやすい目標でないかと思う。

8.10のターゲットは金融機関の能力強化を通したすべての人への金融アクセス促進・拡大が目標となっている。フィンテックの進展によって、銀行がなく貯金の概念がない地域においてはスマートフォンをつかったモバイル金融が普及しつつある。日本においては災害時でも資産が守られ、停電時でも金融サービスにアクセスできる状況となるとまだ課題が残っている。銀行や保険など金融業界は取り組みやすい目標と思える。

8.aーbは、「貿易関連技術支援のための拡大統合フレームワーク(EIF)」の支援や「国際労働機関(ILO)」の仕事に関する世界協定の実施など、既存のフレームワーク活用をさらに進めることで、後発開発途上国や若年雇用につながる未来投資の手法が目標になっている。

目標8はジャンル分けも少し難しいけど、ひとつひとつ読んでいくとなんとなくわかってくる。日本企業は社内の経営基盤強化施策のひとつとしてこの目標を取り入れる傾向があるように思う。企業の社員の働き方改革やコロナ禍のニューノーマルと言われる施策でこの目標が取り上げられることが多い。労働組合関連や同一労働同一賃金のターゲットもあるから考えやすいのだろうな。事業としてやっている例でいうと、目標6の記事に書いたLIXILのトイレを地方で作る体制を整えることで現地に雇用を生んだりっていうのがこれに該当すると思う。自社内に閉じた目標でなく、こういう社会課題を解決しながら事業にするものをぜひ積極的に考えたい。

企業が取り組むSDGsについて実践的に考えるならコレ。ワークシートもついており自社についてあてはめて考えながら読むことができるほか、様々な企業の社会課題解決事例も豊富。

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