SDGs目標のターゲットを考える 9.産業と技術革新の基盤をつくろう

SDGsに17目標あるうち9番目は「産業と技術革新の基盤をつくろう」。いかにも先進国向けなニオイがする目標。本文は「強靭(レジリエント)なインフラ構築、包括的で持続可能な産業化の促進およびイノベーションの推進を図る」。こうなると対象を明言していないことはわかる。これも、日本の大企業・IT企業・金融業界が選びたがる目標のひとつ。

9.1は、説明するよりそのままの訳を読むほうが分かりやすそう。
「すべての人が平等に安価にアクセスできることを重点においた経済発展と福祉の実現のため、信頼できる質の高い持続可能で強靭なインフラ(越境インフラを含む)を開発する。」
経済の発展と福祉を実現する持続可能なインフラ開発。これはソフトともハードとも明言されておらず、両方該当する「社会インフラ」と考えられる。ハードインフラの強靭さも重要だし、現在およびこれからの情報化社会の中ではソフト面のインフラも強靭でなければ持続しない。

ターゲット9.2は包摂的で持続可能な産業化の促進、各国の雇用とGDPに占める産業セクターの割合を大幅に増加させるとある。ここで言っている産業セクターとは、第一次~三次産業、六次産業のどれを指しているんだろう。原文読んだほうが良いべか。。産業って、産業革命をイメージすると工業かなと思うけども。

9.3は、金融サービスやバリューチェーン、市場への統合に対するアクセス拡大が目標になっていて、金融業界よりの目標に見える。「特に」につづいて開発途上国が強調されている。マイクロサービスが成長していけるための支援をしましょうという感じか。

ターゲット9.4では、資源利用効率の向上、クリーン技術、環境配慮技術や産業プロセスの導入拡大を通じたインフラ改良や産業改善による持続可能性の向上が目標。ただ単に生産性を向上して環境に悪影響を及ぼすものはもうダメで、社会や環境を良くすることと両立するような開発をしましょうという目標。先進国が先進技術を持って取り組むことができる目標、既存のビジネスをこの方向に変えていくべきターゲットだと思う。

国連データによると、全世界の炭素強度(エネルギー消費量に対する二酸化炭素排出量)は2000年からの15年で付加価値1ドルあたり二酸化炭素換算で0.38kg→0.31kgに19%低下しているそう。トヨタとかはゼロエミッションを目標に掲げて取り組んでいる。1ドルあたり300gと考えるとなんかまだ多い気もする。単に減らすことを努力してもゼロにはならないので、「減らす」を目標にするのではなく「0にする」を目標にすることで、イノベーションが生まれる。

ターゲット9.5はすべての国の産業セクターにおける科学研究の促進によって技術能力を向上させることが挙げられている。先端技術や知識を備えて応用できる研究者・開発者・技術者が多いほど、生まれるイノベーションも多くなるでしょうということか。こういった人材はすぐに育てられるものでないので、企業にとっては長期間にわたる投資の覚悟が必要になると思う。

9.a、9.b、9.cのターゲットはいわゆる途上国向けに、金融・テクノロジー・技術の支援強化を行い、その持続可能で強靭なインフラ開発を促進すること、それらの国の国内技術開発、研究およびイノベーションを支援すること、情報通信技術へのアクセス向上が目標。これらの途上国を支援するのは誰か?先進国でしょうね。日本も、グローバル展開してなかろうとも意識したら良いとこでないかと思う。顧客が日本国内に閉じてても、オフショアなんかしていれば立派な当事者。

ターゲットまで見ていくと、先進国はイノベーション力があるんだからそれを活用して社会にも環境にも配慮したより強靭なインフラの基盤をつくりましょ、それを自国のためだけに使うんでなく途上国の力を伸ばすとこにも活用しましょっていうことが書いてある。目標9でも、LIXILのトイレの件は大きく貢献している。これからの「支援」は、ただ寄付するとかあげるだけでなく売るだけでもなく、現地に雇用と生産体制をつくって地産地消できるサイクル・ノウハウや知識を提供するところにある。お金の寄付は政府が腐敗しているので市民に届かない、だから服などの現物支給のほうが良いという話も聞いたことがある。現物支給も一時しのぎにはなるけど根本解決にはならないので、支給するならミシンと布をっていう話も聞いたことがある。豊かな人のいらないものを貧しいひとに与えるという支援は、もしかしたらなくなってくるのかもしれない。

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SDGs目標のターゲットを考える 8.働きがいも経済成長も

SDGs17目標の8番目、「働きがいも経済成長も」。目標1~6が「発展途上国向けイメージが強い」(過去に書いた記事のとおり、発展途上国の概念は今は適切でないんだけどアジェンダの表現がこれなので)のに対し、目標8は先進国向け目標のイメージが強い目標のひとつ。本文は、「包摂的で持続可能な経済成長およびすべての人の完全で生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進する」で、先進国だけでもなくやっぱりすべての人なんだなと思える。日本のIT企業が重点課題=マテリアリティとしてあげたがる目標のひとつでもある。働きがいっていう広い概念でもあるので、ターゲットも10+2個と多め。

ターゲット8.1は国ごとの基準で見ての一人当たり経済成長率の持続という、ハードル高めな目標。後発開発途上国においては年率7%っていうかなり高そうな目標。コロナの影響で達成までの道のりが遠のいてそう。

ターゲット8.2-3は、持続的な経済成長を達成するための働き方や政策促進をもとに、大企業だけでなく中小零細企業の支援を目標としている。高付加価値セクター、労働集約型セクターへ重点を置くこと、多様化や技術の向上、イノベーションの実現や雇用創出・企業・創造性・イノベーション支援や金融サービスへのアクセス改善など、具体的な課題や支援策が盛り込まれている。IT企業、金融業界が選びやすいターゲットでもある。

ターゲット8.4は「持続可能な消費と生産に関する10カ年計画枠組み」にもとづく経済成長と環境悪化の分断を図るという目標。これこそ先進国の大企業とかIT企業とかが選んでも良いんじゃないかと思う。第三次産業革命からこれまでの発展は環境を置き去りにしてきており、経済発展=自然環境悪化はセットだった。これを分断しよう、経済発展と自然環境保護を両立させようというのがこの目標。先進国主導のもとという言葉も明記されており、日本はより自分事で考える必要がある。

8.5以降、8.8までのターゲットは国・企業の経済成長や生産性からぐっと人の話に寄っている。対象は、健常者だけでなく若者、障がい者、奴隷、こども、移住者、女性、不安定な雇用状態にある労働者とまさに「すべての人」。生産的な雇用や人間らしい仕事と同一労働・同一賃金や(8.5)、就労就学職業訓練を行う人の割合増加(8.6)、強制労働根絶・奴隷制や人身売買、児童労働の禁止・撲滅(8.7)、労働者の権利保護や安全・安心な労働環境促進(8.8)と、人間らしい働きがいにつながる環境も整備していこうという目標。文章が長くて難しい表現もあるけど丁寧にみるとわかる。人身売買とか日本ではあまり関連なさそうだけど、ひとり親世帯や非正規雇用者はコロナ禍においてリストラや休業のマイナス影響をたくさんくらった、不安定な雇用状態にある労働者と言え、日本でも解決が迫られている問題である。

ターゲット8.9では持続可能な観光業促進が盛り込まれ、「雇用創出や地方の文化振興・産品販促につながる」という視点は地方創生にもつながる目標になっている。日本の地方自治体や社会企業家がターゲットとしやすい、取り組みやすい目標でないかと思う。

8.10のターゲットは金融機関の能力強化を通したすべての人への金融アクセス促進・拡大が目標となっている。フィンテックの進展によって、銀行がなく貯金の概念がない地域においてはスマートフォンをつかったモバイル金融が普及しつつある。日本においては災害時でも資産が守られ、停電時でも金融サービスにアクセスできる状況となるとまだ課題が残っている。銀行や保険など金融業界は取り組みやすい目標と思える。

8.aーbは、「貿易関連技術支援のための拡大統合フレームワーク(EIF)」の支援や「国際労働機関(ILO)」の仕事に関する世界協定の実施など、既存のフレームワーク活用をさらに進めることで、後発開発途上国や若年雇用につながる未来投資の手法が目標になっている。

目標8はジャンル分けも少し難しいけど、ひとつひとつ読んでいくとなんとなくわかってくる。日本企業は社内の経営基盤強化施策のひとつとしてこの目標を取り入れる傾向があるように思う。企業の社員の働き方改革やコロナ禍のニューノーマルと言われる施策でこの目標が取り上げられることが多い。労働組合関連や同一労働同一賃金のターゲットもあるから考えやすいのだろうな。事業としてやっている例でいうと、目標6の記事に書いたLIXILのトイレを地方で作る体制を整えることで現地に雇用を生んだりっていうのがこれに該当すると思う。自社内に閉じた目標でなく、こういう社会課題を解決しながら事業にするものをぜひ積極的に考えたい。

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SDGs目標のターゲットを考える 5.ジェンダー平等を実現しよう

SDGsの17目標5番目は「ジェンダー平等を実現しよう」。正式には、「ジェンダー平等を達成し、すべての女性と女児の能力強化を行う」。この目標は少し賛否が分かれるところだなぁと思ってみている。そもそもジェンダーって、ウィキペディア先生には

ジェンダーは多義的な概念であり、性別に関する社会的規範と性差を指す。性差とは、個人を性別カテゴリーによって分類し、統計的に集団として見た結果、集団間に認知された差異をいう。ジェンダーの定義と用法は年代によって変化する。ジェンダーという概念は、性別に関して抑圧的な社会的事実を明らかにするとともに、ジェンダーをめぐる社会的相互作用をその概念自身を用いて分析するものである。

とある。
なにやら難しいけど、個人的見解としては、要は社会的に自分がどっちの性別で見られるかと、自分自身が感じる性とのギャップ。
この「社会的にどっちに見られるか」ってとこが賛否のポイントなのだろうなあと思う。LGBT界では一般的?になってる概念「性別はグラデーション」。
ただこのSDGsでは、そのあとに「女性の能力強化」とあるので意味合いが違ってきていると思う。LGBTの話は別の機会に。

日本でも世界でも、男女の格差はとても大きい。この問題に関しては日本は後発すぎるほど進展していない。先日の五輪旧会長の発言も然り、ジェンダーギャップ指数の世界ランクも2020年121位と、ビリケツレベル。もちろんG20なんかの中では断トツ最下位。会社の女性管理職比率とかは有名な話、地方に行くと未だに女性の教育機会がないとかある。世界で見ても、男の子は学校に通うけど女の子は水汲みに行ってて学校いけない、などから始まり日本同様、子育て家事は女の仕事で立場弱いなど、問題は多い。それを解決しようというのがこの目標5番。

ターゲット5.1では、助成及び女児に対する「あらゆる形態の差別を撤廃する」ことがきていて、あらゆるっていうところに、目標1「貧困をなくそう」の「あらゆる形態の貧困をなくす」と同じ重さを感じる。5.2-3は日本ではちょっと遠い印象だけど、人身売買・その他搾取・未成年者の結婚・早期結婚・強制結婚・女性器切除などの暴力や有害な慣行を撤廃することを目標にしている。表現からでも切実というか、え、そんなことあるのって思うことが(主に女性器切除)書かれているあたり、自分が知らないだけで深刻な課題なんだと思う。電車の広告でも、「10歳で結婚」とかあるけど想像がつかない。。

ターゲット5.4は日本のこと見て作ったんですか?と思うような、「無報酬の育児・介護や家事労働を認識・評価」することが目標になっている。評価するのが夫とかの主観でなく、「公共のサービス、インフラおよび社会保障政策の提供、ならびに各国の状況に応じた世帯・家族内における責任分担を通じて」というあたり、日本の状況に応じて誰がどう判断するのかはわからないけど、公共・社会保障政策などなど変容の余地が十二分にあるところだと思う。これは何も、夫が半分ちゃんと育児家事せいっていう話だけではなく、世の中には家事代行サービス等を生業にしているひとたちもいるわけで、家事にきちんと対価を払ってそれをやってもらうということも、「無報酬の認識・評価」なんでないかなと思う。金かけてっていうのはもちろん金持ちにしかできないことだけども、そこをもっとサービス受けやすくすることが公的支援のなせるワザかもしれないよね。

ターゲット5.5はこれもまた日本の話ですか、みたいな女性管理職の話。「政治、経済、公共分野でのあらゆるレベルの意思決定において完全かつ効果的な女性の参画と平等なリーダーシップの機会を確保する」。最近仕事でIT企業大手の統合報告書を分析してるけど、女性比率のまぁ少ないこと。女性管理職比率、世界で見ると24%ほどでまだまだ足りないと言われている中、日本平均は17%、今分析している企業群は、10%いくかいかないか程度。役員・監査に女性が一人もいない会社もある。そんな会社が重点項目でこの「ジェンダー平等」を掲げて多様性・働きがいのある会社って堂々と言ってたりする。SDGsウォッシュの絶好の標的になるなぁと思う。

ターゲット5.6には、「性と生殖に関する健康および権利への普遍的アクセスの確保」があげられている。これはそもそも無計画な人員増加で不幸な子を増やさないようにということなんだろうか。。NOと言える勇気、のまえに何がNOかを知識としてつけるため、ということなんだろうか。北京行動綱領を見れてないので、見てみなければ。

5.a-cは、女性や女児がその力や権利ちゃんと行使できる環境を整えましょうという施策が並ぶ。経済的資源についての権利・オーナーシップ・土地その他の財産・金融サービス・相続財産・天然資源にアクセスする権利や(5.a)、能力強化のためのICTをはじめとする実現技術の活用(5.b)、適正な政策や拘束力のある法規(5.c)がそれにあたる。あらゆる面で女性が不利にならないような環境を整備しましょうという目標。

先日、とある会社のSDGs研修を見たときに「女性の『能力強化』という表現に違和感がある。能力が劣っているわけではないでしょ」という意見があった。まぁ確かにと思い。この「能力強化」という訳、英語ではエンパワーメントと書いており、能力強化と別の意味では「権利をもつ」という表現もあった。おそらくこっちの和訳のほうがあっているというか、誤解は生まないのかもなぁと思った。教育による能力開発の機会が、男性に比べて得られていないことから「能力開発」という表現を使っている可能性もあるけども。男性と同じように持つべき権力を正しく行使できるようにするというのがSDGsで目指したい世界なのではと思う。

ここまで来て最初の話に戻ると、SDGsのキャッチコピーや正式目標では「ジェンダー平等」と言っているけど、ターゲット全般、主役は「女性および女児」と明記されているのが特徴。誰から見ての女性および女児か?まで定義されておらず、LGBT界はこの目標に性的マイノリティを当てはめているところもたくさんあるけど、個人的には性的マイノリティに対する課題はSDGsに正しく盛り込まれていないと感じる。これはまた別の記事で。

そろそろバッヂ欲しくなってきた?トーキョーのえらそうなオジサンたちが最近胸背広胸元につけだしたカラフルなやつの正体はコレ。国連本部限定品とあるけど筆者に真偽は問わないでください。

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